マグネシウム摂取量とすい臓がん発症率

公開日:2015年12月16日

マグネシウム摂取量とすい臓がん発症率

2015年、米国インディアナ大学、東京慈恵会医科大学、フレッド・ハッチンソンがん研究センター、ワシントン大学の研究者らが、“マグネシウム摂取量とすい臓がん発症率”について報告したので、その論文概要を紹介致します。

背景

マグネシウム摂取量とすい臓がんの危険因子である糖尿病発症リスクと逆相関していることが研究で示されています。しかし、すい臓がんとマグネシウムの直接的な関連性についての研究は少なく、調査結果は確定的ではありません。

本研究では、大規模な前向きコホート研究においてマグネシウム摂取量とすい臓がんの発症率間の縦断的な関連性を調べることを目的としました。

方法

VITamins And Lifestyle (VITAL)研究に参加したベースライン時の男女66806人、年齢50-76歳の集団は、2000から2008年まで追跡調査しました。

多変量調整コックス回帰モデルを、マグネシウム摂取量のカテゴリーによってすい臓がん発症率のハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定するために用いました。

 VITamins And Lifestyle (VITAL)研究は、米国立衛生研究所(NIH)の一部である米国立癌研究所(NCI:National Cancer Institute)の支援によるサプリメントとがんリスクのコホート研究で、1999年にワシントン州で開始されました。

結果

平均6.8年間の追跡調査期間中、151例の参加者がすい臓がんを発症しました。

 マグネシウム摂取量の推奨量(RDA)を満たした参加者と比較し、すい臓がんの多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は、マグネシウム摂取量が推奨量の75-99%の範囲で1.42 (0.91, 2.21) [マグネシウム摂取量が推奨量の75-99%の範囲ではすい臓がんのリスクが42%有意に高くなるという意味です]、推奨量の75%未満で1.76 (1.04, 2.96)  [マグネシウム摂取量が推奨量の75%未満ではすい臓がんのリスクが76%有意に高くなるという意味です]でした。

マグネシウム摂取量1日あたり100 mg低下する毎にすい臓がんの発症率24%増加(ハザード比: 1.24; 95% CI: 1.02, 1.50; P=0.03)と関連していました。

これらの関連については年齢、性別、体格指数、非ステロイド性抗炎症薬の使用によって影響を受けず、マグネシウムサプリメント(マルチビタミンまたは個々のサプリメントから)を摂取したものに限定されるように思われました。

参加者のベースライン時の特徴と総マグネシウム摂取量レベル、2000-2008a

10-171 Mg摂取量とすい臓がん

* クリックすると拡大表示します。

a マグネシウム摂取量は食事とサプリメント両方を含みます。

b  P値はマグネシウム摂取量3グループ間の差異です。

結論

この前向きコホート研究からの調査結果は、マグネシウム摂取量はすい臓がんの一次予防の観点から有益であることを示します。

参考資料:

Dibaba D, Xun P, Yokota K, White E, He K. Magnesium intake and incidence of pancreatic cancer: the VITamins and Lifestyle study. British Journal of Cancer 113:1615-1621, 2015 doi:10.1038/bjc.2015.382

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26554653

コメント

本研究では、食事性マグネシウム摂取量が多いとすい臓がんの発症率が低下し、逆に、推奨量の75-99%の範囲でリスクが42%高くなり、推奨量の75%未満ではリスクが76%高くなり、マグネシウム摂取量1日あたり100 mg低下する毎にすい臓がんの発症率が24%増加することを明らかにした点に大変意義があると言えます。

米国のマグネシウム推奨量については、当ホームページで以下のサイトをご参照ください。

2008.11.29 ドイツのマグネシウム推奨量

また、日本人の食事摂取基準の最新版(2015年版)に於けるマグネシウム推奨量については、以下のサイトをご参照ください。

2014.05.14 日本人の食事摂取基準(2015年版)

すい臓がんは最も致命的な悪性疾患の一つとして知られています。MAG21研究会のホームページでは、女性のすい臓がんリスクに関しても解説して来ました。

2015.01.21 ナッツ類の摂取量と女性のすい臓がんリスク

この研究の主任研究者 Ka He教授は、以前からマグネシウム摂取量が最も多い群では最も少ない群に比べてメタボリックシンドロームになるリスクは31%減少。若い時から十分なマグネシウムの摂取が大切”と報告しています(He K, et al., Circulation 113:1675-1682, 2006)。

また、今回の論文にMAG21研究会のメンバーである東京慈恵会医科大学の横田邦信教授も共同研究者として名を連ねています。

MAG21研究会のホームページでは、He教授らの論文などに関しても解説して来ました。

2014.09.03 米国の脳卒中地帯とマグネシウム

2014.08.13 食事性マグネシウム摂取とメタボリックシンドローム発症リスク: メタ解析

2013.05.30  青年期の水銀暴露と後の糖尿病発症率

2012.05.22  Ka He先生略歴と講演抄録 

2012.04.23  Ka He先生来日3回講演のお知らせ 

2012.02.21  特集:マグネシウムと生活習慣病

2011.09.21  マグネシウム摂取と2型糖尿病発症リスク 

2010.12.21  マグネシウム摂取量と全身性炎症、インスリン抵抗性と糖尿病発症との関連

2009.04.20  高血圧治療ガイドライン2009

2008.01.24  経口マグネシウムサプリメントの影響 

2007.08.23  女性及び小児とメタボリックシンドロームについて 小児メタボ 

2007.08.21  メタボリックシンドロームの予防 -その2- 

マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。

 

 

 

検索

新着記事