シスプラチン投与により誘発された腎毒性に対するマグネシウム前負荷の保護的効果: 後向き研究

公開日:2016年2月25日

シスプラチン投与により誘発された腎毒性に対するマグネシウム前負荷の保護的効果: 後向き研究

2014年、国立がん研究センター東病院の研究者らが“シスプラチン投与により誘発された腎毒性に対するマグネシウム前負荷の保護的効果: 後向き研究”に関する報告をしたので、その論文の概要を以下に紹介します。

目的

マグネシウム補充は、シスプラチン(抗がん剤)投与により誘発された腎機能障害に対して腎臓の保護的影響を及ぼすことが報告されていますが、シスプラチン投与前にマグネシウム前負荷の効果についてのエビデンスはほとんどありません。2011年1月にシスプラチン治療計画においてマグネシウム前負荷(硫酸マグネシウム8 mEq)を含めて開始しました。

研究の目的は、マグネシウム前負荷がシスプラチン投与により誘発された腎毒性を低下させるかどうかを評価することでした。

方法

対象は2009年1月から2011年12月に、最初の化学療法としてシスプラチンを含む投薬で治療された496人の胸部悪性腫瘍患者について振り返って検討しました。

最初のサイクルと全てのサイクルでマグネシウム前負荷群(n=161人[32%]、男性77%、中央値年齢64歳)と非マグネシウム前負荷群(n=335人[68%]、男性75%、中央値年齢65歳)間における血清クレアチニン上昇の有害事象発生率を比較しました。

結果

投与サイクル数の中央値は両群で4でした。マグネシウム前負荷群の血清クレアチニン上昇の発生率は、非マグネシウム前負荷群よりも最初のサイクルと全てのサイクルの両方で有意に低下しました(最初のサイクル間4.9対19.1%と全てのサイクル間14.2対39.7%)。

最初の投与後から全期間を通してマグネシウム前負荷はシスプラチン投与により誘発された腎毒性を有意に低下することが多変量解析で示されました(最初のサイクルのオッズ比:0.262、95%信頼区間: 0.106–0.596; 全サイクルのオッズ比:0.234、95%信頼区間: 0.129–0.414)。(注釈: オッズ比:0.262とは、シスプラチン治療前にマグネシウムを投与することにより腎毒性の副作用が73.8%低下すると言う意味です)

結論

シスプラチン投与前にマグネシウム前負荷することでシスプラチン投与により誘発された腎毒性を有意に低下させました。

参考資料:

Yoshida T, Niho S, Toda M, Goto K, Yoh K, Umemura S, Matsumoto S, Ohmatsu H, Ohe Y. Protective effect of magnesium preloading on cisplatin-induced nephrotoxicity: a retrospective study. Japanese Journal of Clinical Oncology 44:346–354, 2014. doi:10.1093/jjco/hyu004

http://jjco.oxfordjournals.org/content/44/4/346.long

コメント

この論文では、抗がん剤であるシスプラチン投与による腎機能障害に対し、シスプラチン投与前にマグネシウムを補充することで、腎毒性の副作用が73~77%低下するとしたマグネシウムによる腎臓の保護的効果のエビデンスが確認されたことが大変意義あるものと言えます。

利尿薬、抗菌薬、抗がん剤などの副作用として腎機能障害があり、低マグネシウム血症を引き起こすことが知られています。同様に抗がん剤のシスプラチン投与で低マグネシウム血症となるので、シスプラチン投与前にマグネシウム不足および腎臓の保護作用としてのマグネシウム補充が重要になります。

他の薬剤では胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎などの適応を持つ処方薬のプロトンポンプ阻害薬(PPI)を1年以上長期に服用した場合、低マグネシウム(Mg)血症を来す可能性があることが報告されています。

2011.03.09  米国FDA注意喚起 プロトンポンプ阻害薬(PPI)の長期服用で低Mg血症の可能性

マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。 

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